“脱・黒塗り PDF”──文書読解 AI で情報開示を自動化する
黒塗りPDF――それは行政や企業が公開する資料で、読者が最初に抱くストレスの源です。大量の箇所が真っ黒に塗られ、内容を推測するしかない。手作業の黒塗りには時間もコストもかかり、うっかり情報が漏れるリスクもあります。本記事では、日本発の文書読解AI「LITRON(リトロン)」を軸に、要約とマスキングを自動化する最新手法を紹介し、自治体・企業法務が“脱・黒塗りPDF”を実現するロードマップを示します。
1. 黒塗りPDF問題をおさらい
情報公開請求や契約開示で生まれる黒塗りPDFには<①作業負担が大きい ②ヒューマンエラーが起こりやすい ③統一ルールが曖昧>という三重苦があります。例えば自治体では1件あたり平均30ページ以上を確認し、墨消しに数時間要することもしばしば。人手に依存する限り、漏えい事故や対応遅延をゼロにするのは困難です。
2. 文書読解AIとは?
従来のOCRは“文字を画像からテキストに起こす”だけでした。文書読解AIはそこから一歩進み、文章の意味を理解して「どの情報が重要か」「どこが機密か」を判断します。専門用語でいう自然言語処理(NLP)ですが、本記事では「AIが文章を読んで要点を整理する技術」と覚えておけば十分です。
2-1 LITRONの特徴
- 高速学習:AI自ら人に質問して正解を学ぶ“対話的学習”で短期間に現場語を習得。
- 要約生成:長文からエッセンスを抜き出し、数行で把握できる要約を自動生成。
- マスキング支援:個人情報や機密語を検出し、黒塗り候補をリストアップ。
3. 自動要約のステップ
要約は大きく「抽出型」と「生成型」に分かれます。抽出型は原文から重要文を抜き出す方式、生成型はAIが自然な文で書き直す方式。LITRONは後者に対応しており、大規模言語モデル(ChatGPTの仲間)の技術を応用しています。
① 文書をアップロード ② AIが段落ごとのトピックを抽出 ③ キーワードをスコアリング ④ スコアの高い情報を結論中心に再構成 ⑤ 数行~1ページの要約を出力
担当者は全文を読む前に骨子を把握でき、重要箇所へ瞬時にアクセスできます。
4. マスキング自動化のプロセス
黒塗り作業は、検出→判定→墨消しの3段階に整理できます。
- 検出:AIが氏名・住所・電話番号などの個人情報パターンを自動抽出。
- 判定:公開基準に照らし、残す/隠すを職員がワンクリックで確定。
- 墨消し:選択箇所をPDFレイヤーごと削除し、コピー不能な完全マスキングへ。
これにより「黒塗りしたつもりが文字が残っていた」という事故を防止できます。
5. 自治体での活用シナリオ
情報公開請求対応の流れをAIで刷新すると次のような効果が期待できます。
工程 | 従来 | AI導入後 |
---|---|---|
文書検索 | 関係部署へ依頼、紙をめくる | LITRONが全文検索し候補を提示 |
要点確認 | 担当者が全文読解 | 自動要約で3分の1時間 |
黒塗り | 手作業でマーキング | AI候補を確認しクリック承認 |
公開 | 書類チェックに数日 | 半日で完了 |
実証自治体では、開示1件あたりの作業時間が約60%削減し、漏えいリスクも低減しました。
6. 企業法務での活用シナリオ
法務部門が抱える大量の契約書もAIの得意領域です。LITRONは契約条項を体系化し、リスク条項だけをハイライト表示。さらに社外提出資料を自動マスキングし、機密保持契約(NDA)違反リスクを下げます。
7. 導入時のチェックポイント
- 対象文書の形式:スキャンPDFはAI-OCR精度に依存するため画質要件を満たす。
- ガイドライン整備:AIが示す黒塗り候補の最終判断責任者と基準を明文化。
- 学習データ管理:機密文書をクラウド学習させる場合は暗号化・アクセス制御を実装。
- 費用対効果:現行プロセスの工数を可視化し、AI導入コストと比較する。
8. コスト試算例
月50件・平均40ページの開示業務を想定すると、手作業では約160時間(1件3.2時間)、AI導入後は約60時間に短縮。人件費5,000円/時とすると月50万円→25万円となり、月額AI利用料20万円でも即ペイ可能な試算です。
9. よくある質問
- Q1 AIの判断ミスが心配です。
- A1 候補抽出と最終確認を分離する「人+AI」体制を採れば、誤判定のリスクを抑えつつ作業量を減らせます。
- Q2 学習に使った機密情報が外部に漏れませんか?
- A2 LITRONは閉域網で運用可能。ログも国内拠点に保管でき、機密保持要件に対応します。
10. まとめ
黒塗りPDFは“仕方ないもの”ではありません。文書読解AIを使えば、要約で内容把握を高速化し、マスキングで漏えいを防ぎ、職員・社員の負担を大きく下げられます。LITRONのような国産AIを活用し、“脱・黒塗り”へと一歩踏み出しましょう。