MUFG銀行がDatabricksで実現した社内生成AI基盤とAIアプリ量産体制の全貌

MUFG銀行がDatabricksで実現した社内生成AI基盤とAIアプリ量産体制の全貌

MUFG Bank本社ビル外観

三菱UFJ銀行(以下、MUFG)は「データドリブン経営」を掲げ、社内に散在していたAI開発環境を統合する次世代基盤としてDatabricks Data Intelligence Platformを採用しました。2025年4月に正式発表されたこの基盤は、行内3万人超の行員が安全かつ自由にデータとAIを活用できる共通プラットフォームとなり、不正検知から新規ビジネス創出まで幅広いユースケースを支えています。

1. 基盤構築の背景と狙い

  • 経営課題への直結:中期経営計画における「企業変革の加速」を技術面で支援し、生産性と顧客生涯価値(CLV)向上を目指す。
  • 開発環境の統合:Apache Sparkベースの分散基盤でバッチ/ストリーミング両方を処理し、行内外データをレイクハウスに一元化。
  • ガバナンスと自由度の両立:Unity Catalogで権限制御とデータ系統管理を行い、国内データセンターの閉域構成で機密情報を保護。

2. Databricksレイクハウスの全体像

Databricksロゴ

基盤は「データ→AI→アプリ」を一直線に結ぶ設計です。

  1. Delta Lake — 生取引データからログまで信頼性を担保して格納。
  2. Unity Catalog — データ/モデル/機能コードを一元ガバナンス。
  3. MLflow & Mosaic AI — LLM微調整、RAGパイプライン、エージェント開発をノートブックからワンクリックで実行。

3. 社内版ChatGPT「AI-bow(アイボウ)」

開発期間:2023年4月〜11月という短期間で完成したAI-bowは、OpenAI GPTモデルをAzure内の閉域で運用し、

  • RAG検索:行内規程やマニュアルを横断検索し、引用元リンク付きで回答。
  • 業務支援:要約・翻訳・文書校正・コード生成など日常業務を高速化。
  • ユーザー規模:全行員約4万人が利用、利用回数はリリース後右肩上がり。

安全利用のため、全行員にeラーニング研修を必須化し、ハルシネーション対策として「人のレビューを必ず挟む」ルールを徹底しています。

4. ガバナンス・人材体制

AI推進を担うデジタル戦略統括部 AI・データ推進グループには、支店営業や文系出身者も多数在籍。現場ニーズと技術を橋渡しすることで「使われるAI」を実現しています。

  • 段階的展開:一部部署でパイロット→全行展開。
  • AI伝道師制度:高度ユーザーを育成し、各部門の活用を支援。
  • アイデアソン:業務課題を募集し、優秀案をプロトタイプ化。

5. 他業界への展開可能性と成功事例

5-1. 製造業:旭鉄工「カイゼンGAI」

トヨタ系部品メーカー旭鉄工は、現場の動画や過去事例を学習させた生成AI「カイゼンGAI」を開発。改善ポイントを自動抽出し、熟練ノウハウの継承と不良対応を高速化しました。

5-2. 物流・サプライチェーン:Kinaxis × Databricks

グローバルSCM大手Kinaxisは、自社Maestro™とDatabricksを連携し、断片化した供給網データを統合。需要変動にリアルタイム対応し、在庫最適化と業務アジリティを向上させています。

5-3. 小売業:ライフ「AI-Order Foresight」

スーパーマーケットライフは、生鮮品発注にAI需要予測サービスを導入し、全304店舗で発注工数を大幅削減。予測期間を5日→3週間に拡大し、欠品と廃棄を同時に抑制しました。

6. エンタープライズLLM導入ロードマップ

  1. 戦略立案:経営課題とAI活用領域を紐付け、効果が高いユースケースを選定。
  2. 基盤整備:レイクハウス+閉域LLMでガバナンスと柔軟性を両立。
  3. パイロット開発:IT×現場のクロス機能チームでプロトタイプ評価。
  4. 教育と全社展開:ガイドライン制定、段階ロールアウト、AI伝道師育成。
  5. 定着化と拡大:活用コミュニティ・アイデアソン・モデルの定期再学習でPDCA。

まとめ

MUF​Gが構築したDatabricks基盤は、「安全性」と「開発スピード」を両立させながら社内AIアプリを量産できる仕組みを実証しました。ガバナンスを最優先しつつ、現場目線を取り入れた運用体制と段階的展開策は、製造・物流・小売など他業界でも応用可能です。生成AIが“社員の相棒”になる未来へ向け、今こそレイクハウスとLLMを組み合わせたエンタープライズ基盤を整備する好機と言えるでしょう。

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